8.下女に化けた老狸


 ある年、彼は伊達の某寺へ行ってしばらくそこに滞留していた。おりしも夏の真っ盛り、汗をぬぐいながら隣村へ斎(トキと読み法事や仏事の際に出る食事の事)に行った帰り寂しい山路へ差しかかかった。すると突然目の前に一丈(約3m)以上もある大入道がヌッっと現れた。彼は別段驚きもせず、「畜生ッ 馬鹿にするな!」と叫びながら腰なる脇差抜くより早く一討ちに斬りつけた。ギャッと一声立ててそのまま大入道は姿を消してしまった。寺に帰ってからも暑くてたまらないので雨戸も障子も開け放ったままで蚊帳を吊りグウグウ高いびきをかいて寝込んでしまった。何時とはなしに恵秀をゆり起すものがある。ふと眼を覚まして良く見ると寺の下女である。さてはこの女、変な気でも起こしたのか

「ここは女の来るところではない、早々に立ち去るがよろしい」

といって女を押しのけたが容易に立ち去る気配もがない。はて聞き分けのないと言いながら、尚も女を押しのけようとすると、彼女はいきなり恵秀の胸辺りに物凄い勢いで喰らいついてきた。手もなく押さえつけようとしたが、どうしてどうしてその女の力の強い事、流石の大力の恵秀もややもすると負けそうになる。ドタンバタンとまるで板敷も踏み抜けそうな有様、取っ組み合いながらとうとう吊った蚊帳が落ちたのを幸い、そのままグルグル巻きにして女を縛りつけて、思いっきり叩きつけた。やがて下女の部屋をのぞいてみると、彼女は何も知らぬげに熟睡している。

 

 翌朝になると昨晩襲ってきた下女の屍体は、いつの間にやら老狸の姿に変っていた。山中で討ち取ったのは老狸の牡であり、下女に化けて来たのは牝の方であることが分かった。多分夫を殺された仇討にやって来たものらしい。

 

大力和尚恵秀にあやかり境内にある恵秀の墓へ三度お参りすると、三十五人力のご利益があります。